市街化調整区域とは?建築制限・購入リスク・売却の注意点を解説

都市の無秩序な拡大を抑え、自然や農地を守るために設けられている「市街化調整区域」。

このエリアは、住宅や店舗の建築・開発が原則として制限されており、一般的な住宅地とは大きく異なるルールが存在します。

本記事では、市街化調整区域の定義から購入時の注意点、活用事例、売却方法までを詳しく解説します。

目次

市街化調整区域とは

市街化調整区域とは、自然や農地を守ることを目的として、開発が厳しく制限された地域のことです。

土地を購入したり、住宅や建物を建てたりする際に大きな制約を受けるため、一般の住宅地とは異なる取り扱いがなされます。特に、建築や土地利用の自由度が低いため、不動産の活用方法や将来性について慎重な判断が必要です。

市街化調整区域の定義

市街化調整区域は、都市計画法第7条第3項に基づいて指定される区域で、行政が「市街化を抑制すべき」と判断したエリアを指します。

この区域内では、住宅や店舗などの建築は原則として禁止されており、建築行為や開発行為を行うには特別な許可が必要です。

具体的には以下のような特徴があります。

  • 自然環境や農地などを保全するために設定される
  • 無秩序な市街地拡大を防止し、都市インフラの計画的整備を促す
  • 一部例外を除き、新たな建築・開発は原則不可

このため、調整区域内の土地は価格が比較的安価である一方、建築制限により活用の自由度が低くなっています。

市街化区域との違い

市街化調整区域と対になるのが、市街化区域です。両者は都市計画法によって明確に区分されており、その目的と性質は大きく異なります。

比較項目市街化区域市街化調整区域
目的積極的に市街地として整備・開発する区域市街化を抑制する区域
建築・開発原則として自由に建築可能原則として建築・開発は不可(許可制)
インフラ整備水道・下水・道路など整備されやすい整備は限定的・優先順位が低い
地価高め安め
生活利便性高い(商業施設・学校等が充実)低い(公共交通や商業施設が遠い)

このように、市街化区域は住宅や商業施設の建設が進められる一方で、市街化調整区域ではそれが制限されており、「住む」や「使う」といった観点からは大きな差が生じます。

指定の目的と法律的な背景

市街化調整区域が設けられた背景には、都市のスプロール現象(郊外への無秩序な拡大)を防ぐ目的があります。

戦後の高度経済成長期、日本各地で住宅開発が急速に進みましたが、インフラ整備や公共サービスの供給が追いつかず、非効率な市街地が広がる問題が発生しました。

このような課題を解決するために、1970年に改正された都市計画法により「市街化区域」と「市街化調整区域」の区域区分制度が導入されました。これにより、自治体は計画的に開発する地域と、抑制する地域を分けて管理できるようになりました。

法律的には以下のような根拠に基づいています。

  • 都市計画法第7条第3項:「市街化調整区域を指定できる」
  • 同法第29条・34条:建築・開発行為に対して許可制を適用
  • 都道府県知事(または政令市長)が開発許可権限を持つ
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市街化調整区域は都市の健全な発展と環境保全を両立するための制度です。

市街化調整区域でできること

市街化調整区域では、原則として住宅や店舗などの建築は認められていませんが、一定の条件を満たす場合には建築や開発が可能です。

具体的にどのような行為ができるのか、主な内容を整理してみましょう。

建築できる主なケース

市街化調整区域においても以下のような場合、建物を建築することが可能です。

  • 既存宅地に該当する場合
    1970年の区域区分前から宅地であった土地は「既存宅地」として扱われ、一定条件のもとで住宅建築が許可されることがあります。
  • 農家の分家住宅
    農業従事者の親族が居住するための住宅は、分家要件を満たすと建築許可が下りる可能性があります。
  • 公共性の高い施設
    道路、水道施設、電気関連設備などの公益インフラ、あるいは幼稚園や老人福祉施設など、一部の施設は許可制で建築が認められます。
  • 農業用・林業用建物
    農作業小屋や倉庫、温室など、営農に必要な建物は原則として建築可能です(農地法や農振法の制限も考慮が必要)。

市街化調整区域でも条件を満たせば建物の建築が可能な理由は、都市計画法において「例外的に建築を認める制度」が用意されているためです。

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細かい要件は自治体ごとに異なるため、事前相談が必須です。

開発行為が認められる例

地域によっては、沿道サービスエリアなど特定の開発区域として緩和されている場所もあります。また、太陽光発電施設や資材置場などは、事前協議と許可を得ることで活用できることがあります。

ただし、自治体によって運用基準が異なるため、「この土地では何ができるのか」は市町村の都市計画課で事前確認することが重要です。

市街化調整区域の物件を購入するメリット

市街化調整区域は建築や開発が制限されるため、一般の住宅地と比べて不便な印象を持たれることもありますが、視点を変えるとコスト面や環境面で多くのメリットもあります。

ここでは、購入者にとっての利点を解説します。

購入価格が安い

市街化調整区域は建築制限がある分、土地の需要が低くなる傾向があり、結果として地価が抑えられているケースが多いです。

同じ広さの土地でも、市街化区域と比較すると数割安く購入できることもあり、初期費用を大幅に抑えられる点は大きな魅力です。

特に、特定の建築条件(例:旧既存宅地など)を満たしていて建物を建てられる土地であれば、「掘り出し物」となる可能性もあります。

ランニングコストが安い

市街化調整区域の多くは固定資産税評価額が低めに設定されており、毎年の税負担が軽くなるというメリットがあります。また、都市ガスではなくプロパンガス、公共下水ではなく浄化槽というケースもあり、月々のインフラ使用料が異なる構造になっています。

特に「週末住宅」や「別荘」「セカンドハウス」として検討している場合は、年間の維持費を抑えつつ、広い敷地を確保できる点で有利です。

自然豊かな環境で暮らせる

市街化調整区域は、農地や山林に囲まれており、静かで自然が豊かな住環境を維持している地域が多いです。
都市の喧騒を離れ、広い敷地でガーデニングや家庭菜園、ペットとのびのびとした暮らしを実現したいという人には、魅力的な選択肢となります。

また、近年ではリモートワークの普及により「都心から少し離れても広く安く快適に暮らしたい」というニーズが増え、市街化調整区域の注目度も高まりつつあります。

市街化調整区域の物件を購入するデメリット

市街化調整区域には価格の安さや自然環境といったメリットがある一方で、購入前に十分な注意が必要なデメリットも存在します

特に将来的な活用や住みやすさに大きく影響するポイントが多いため、以下のような点を事前に把握しておくことが重要です。

売却が難しい

市街化調整区域の最大のデメリットの一つが、資産価値の流動性が低く、売却しづらいという点です。理由は以下の通りです。

  • 建築や開発に制限があるため、買い手の層が極端に限られる
  • 銀行によっては住宅ローンが通らない、もしくは条件が厳しくなる
  • 「旧既存宅地」などの例外条件を理解している人が少なく、敬遠されがち

そのため、住み替えや相続後の処分を想定する場合には、出口戦略を明確にしておかないと“塩漬け資産”になってしまうリスクがあります。

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投資として購入するにはかなり難易度高めです。

インフラ整備が遅れている可能性がある

市街化調整区域では、上下水道や道路、電気・ガスなどのインフラ整備が行政の優先順位として後回しにされる傾向があります。

  • 公共下水が未整備で浄化槽対応
  • 道路が狭く、舗装されていないこともある
  • インターネット回線(光回線など)が引けないエリアもある

このように、都市部で当たり前に整っているインフラが整備されていない場合、生活の不便さに直結します。また、将来的に整備される見込みが薄い場合、建物の資産価値にも影響を及ぼします。

利便性が悪い

市街化調整区域は自然や農地が多く残る一方で、生活利便施設(スーパー・病院・学校・公共交通など)から離れていることが一般的です。

  • 通勤・通学に時間がかかる
  • 車がなければ日常生活が成り立たない
  • 高齢になると移動や買い物が困難になる可能性もある。

こうした不便さは、特に子育て世帯や高齢者にとって大きなハードルとなります。現在は快適でも、将来のライフステージに合わなくなるリスクも視野に入れておくべきです。

市街化調整区域の物件を購入する際の注意点

市街化調整区域の物件を購入する場合は以下のような注意が必要です。

その土地に本当に建物を建てられるか確認する

最大の落とし穴は、「市街化調整区域=絶対に建築できない」とも、「特定の条件を満たせば建てられる」とも一概に言えない点です。次のような項目を自治体(都市計画課・建築指導課など)に確認しましょう。

  • 旧既存宅地かどうか(昭和45年以前の宅地履歴)
  • 農家住宅や分家住宅としての許可が得られるか
  • 開発許可・建築許可の申請が必要かどうか
  • 市や県が定めるガイドラインに違反していないか

「建築条件付きで購入するのか」「建てられることを前提に購入するのか」で判断が大きく変わります。

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許可が下りる保証がないまま契約すると、事実上「使えない土地」をつかむリスクがあります。


将来の資産価値と売却可能性を見極める

前述のとおり、市街化調整区域の物件は売却が難しい傾向があります。購入時に以下を確認しましょう。

  • 周辺エリアの市街化状況(今後市街化区域に編入される可能性があるか)
  • 近隣で過去に売買された事例があるか
  • 金融機関の融資が通る地域かどうか

特に、銀行ローンが通らない土地=一般の人が購入しづらい土地とされ、結果的に価格が伸びにくくなります。将来の出口戦略まで含めて判断することが重要です。


現地インフラの状況を事前に確認する

建物の建築が可能でも、実際に住むとなると生活インフラの整備状況が大きく関わってきます。以下の点を現地で必ず確認しておきましょう。

  • 上下水道の有無(公共下水か、浄化槽か)
  • 電気・ガス・通信回線の整備状況
  • 接道状況(再建築可の2m接道を満たすか)

インフラの整備状況は日々の生活コストや快適性に直結しますし、将来的な改築・建替にも関わってきます。


用途・目的に合っているかを明確にする

市街化調整区域はすべての人に向いているわけではありません。例えば以下のような使い方には向いています。

  • 自然環境を活かした週末住宅や別荘
  • 農地や山林とセットでの農的生活
  • 資材置場や駐車場など建物を伴わない用途

反対に、「通勤利便性を求める」「子育て環境を重視したい」といった目的にはライフスタイルとのミスマッチが起きる可能性があります。


必ず専門家に相談する

市街化調整区域に関しては、自治体ごとの運用方針や土地の履歴によって建築可否が左右されるため、自己判断は禁物です。必ず専門家のサポートを活用しましょう。

  • 不動産会社(調整区域に詳しい会社を選ぶ)
  • 行政書士・建築士(開発・建築許可申請に詳しい)
  • 市町村の都市計画課・建築指導課

購入前に「本当にこの土地で希望する使い方ができるか」を、現地調査・書類確認と合わせて第三者にチェックしてもらうことを強くおすすめします。

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もちろん、弊社にご相談頂いても対応させていただきます。

市街化調整区域を調べる方法

市街化調整区域かどうかを調べるには、以下のような方法があります。

都市計画図で確認する(最も確実)

各自治体では、都市計画区域や用途地域、市街化区域・調整区域の区分を記した「都市計画図」を公開しています。多くの場合、自治体のホームページでPDF形式やWeb地図として確認できます。

  • 「○○市 都市計画図」などで検索
  • 縮尺に注意しながら対象の住所を探す

不明な点があれば、都市計画課や建築指導課に問い合わせましょう。

不動産情報ライブラリで調べる

国土交通省の「土地総合情報ライブラリ」や「都市計画情報システム」でも、市街化調整区域かどうかの確認が可能です。ただし、簡易的な情報のため、最終的には自治体への確認が必要です。

不動産会社や士業に依頼する

不動産仲介業者や行政書士・建築士は、該当地が調整区域かどうか、建築可否の判断まで含めて調査・相談対応が可能です。特に「旧既存宅地」など判定が難しいケースでは、専門家の力を借りるのが安心です。



市街化調整区域の家を売却する方法

市街化調整区域の不動産は、売却においても独特の制約があります。一般の住宅地とは異なる販売戦略が必要であり、ポイントを押さえることで売却成功率を高めることができます

市街化調整区域の制限内容を正しく把握する

売却を始める前に必ず行うべきことは、その土地や建物にどのような建築制限がかかっているのかを把握することです。

市街化調整区域は、原則として新たな建物の建築が認められていませんが、上記のように再建築が許可される場合もあります。売却活動に入る前にこの確認を怠ると、購入希望者との交渉が難航する原因になります。

買主にとっても、建築可能かどうかは重要な判断材料となるため、こうした情報を正確に伝えることが信頼構築にもつながります。

不動産会社は「調整区域に詳しい業者」を選ぶ

市街化調整区域の家を売却する際に、不動産会社選びは極めて重要です。

調整区域に関する法的な知識や自治体との調整経験が不足している業者では、正確な価格査定や販売戦略を立てることが難しいからです。

一方、調整区域での売買実績が豊富な地域密着型の業者であれば、地元の農家や業者とのつながりを活かし、制限を理解した買い手とのマッチングを図ることができます。さらに、行政とのやり取りや必要書類の整備などにも慣れているため、売却の過程でトラブルが起きにくいというメリットもあります。

買主ターゲットを明確にする

市街化調整区域の家を購入する層は、一般的なマイホーム希望者とは異なる場合が多く、ターゲットの明確化が欠かせません。例えば、隣接地を所有している地権者にとっては、将来的な土地活用のために取得を検討する動機があります。

また、農業を営んでいる人やその親族が、農家住宅としての再建築を前提に購入するケースもあります。このような買主は、ネット上のポータルサイトだけでなく、地元ネットワークや業界内での口コミ、既存の人脈を通じてアプローチすることが効果的です。

市街化調整区域を正しく理解し、後悔のない判断を

市街化調整区域での不動産取引は、一般的な住宅地と比べて制度的な知識や調査が不可欠です。

自己判断だけで進めるのではなく、自治体への確認や、調整区域に詳しい不動産会社・専門家への相談を通じて、確実な情報をもとに検討を進めることが大切です。

不明点があれば、専門機関や実績ある不動産会社へ早めに相談してみましょう。

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